プチ小説「ドビュッシー好きの方に(仮題)完結編」
石橋はその後何とか大学に入学し、4年で無事卒業することができた。大学時代は学友との付き合いを優先したので、クラシック音楽は自宅にいる時にラジカセで楽しむだけにして、レコードの購入もほとんどしなかった。ただ、廉価盤のレコードでいいものがあれば、すぐに購入した。ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のベルリオーズ「幻想交響曲」、フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲第7番、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」、ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団のブルックナーの交響曲第9番、ストコフスキー指揮ニューフィルハーモニア管弦楽団のチャイコフスキーの交響曲第5番、セル指揮クリーヴランド管弦楽団のドヴォルザークの交響曲第7番、ワルター指揮ウィーン・フィルのマーラー交響曲「大地の歌」、オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団のシベリウスの交響曲第2番(旧盤)、ターリッヒ指揮チェコ・フィルのスメタナ「わが祖国」、ストコフスキー指揮ロンドン交響楽団のリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」、ショルティのリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラストラはかく語りき」、クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団のラヴェル「ダフニスとクロエ」、アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団のファリャ「三角帽子」、オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団のレスピーギのローマ三部作などは1300円から1500円くらいで購入できたので、月に2、3枚なら購入できた。
社会人になって3年経過した時、石橋は思った。
<今までは、レコードを交響曲や管弦楽を中心に購入して来たけれど、これからは協奏曲、室内楽曲、独奏曲なんかも聴きたいな。オーケストラの多彩なサウンドを聴いてきたけど、それぞれの楽器独自の琴線に振れるような音をたくさん聴きたい。そのためには装置もそこそこのものを購入しないといけない。まずはこの13万円ほどのコンポを購入するとしよう。それからアンプを買い替え、スピーカー、プレーヤーと買い替えていけばいいと思う。買い替えるたびに、ベネデッティ=ミケランジェリのドビュッシー「前奏曲集」を聴いて、どれだけ音が違うか比較してみたい。だけど実を言うとピアノの音より、弦楽器の音に惹かれる>
そう言いながら、シェリングのバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータのレコードを取り出した。
<新しいステレオが届いたら、真っ先に聴いてみたいのはこのレコードなんだ。パルティータ第2番のシャコンヌがどんな音なのかとても楽しみにしている。ドビュッシー「前奏曲集」も演奏者がいろいろ試行を凝らしていて楽しいけれど、音楽そのものが壮大なレコードは何か別の魅力を持っていて、より引き付けられる>
石橋はレコード棚から数枚レコードを取り出して、呟いた。
<ステレオが届くのを待ちきれなくて、昨日、これらのレコードを購入したのだが、一体どのような音を聴かせてくれるのだろうか。オイストラフのベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、カザルスのドヴォルザークのチェロ協奏曲、ウラッハのモーツァルトのクラリネット協奏曲、ブレインのモーツァルトのホルン協奏曲、ランパルとラスキーヌのモーツァルトのフルートとハープの協奏曲はオーケストラと独奏楽器がどんな魅力的な演奏を繰り広げるんだろうか。想像するだけでも楽しい>
時計を見ると正午近くになっていた。
<ステレオはボーナスが出てからだけど、もう少しレコードを購入しておこうかな。モーツァルトやベートーヴェンの管楽器の合奏、それからシューベルトの八重奏曲なんかもステレオで聴くと、きっと楽しいだろう。昼食を食べたら、日本橋に出掛けるとしよう>